打倒ローマは一日にして成らず

大航海時代Onlineでカルタゴ復興に燃える元将軍の記録。

【書評】 ハンニバル戦争


今回は先月出た佐藤賢一の 『ハンニバル戦争』 の紹介です。
古代ローマが題材の作品は最近ちょこちょこ出てきていますが、
贔屓の作家が上げてきたのでこれは取り上げないと。




『ハンニバル戦争』 佐藤賢一・著 中央公論新社
ISBN978-4-12-004813-5


わたし佐藤賢一は歴史小説の書き手としてはかなり好きな作者でして、小説以外の新書版 『英仏百年戦争』 なども含めて著作はあらかた読んでいます。佐藤さんは西洋史、特に中近世ヨーロッパ史を題材に書いた作品に良書が多く、最近だと 『小説フランス革命シリーズ』 や、古いのだと 『双頭の鷲』や『傭兵ピエール』などは今でも他人に薦められる作品と思っています。

それらとも比較しての今作、古代ローマ題材としては『カエサルを撃て』・『剣闘士スパルタクス』に続いての三作目となりますが、今までの2作がウェルキンゲトリクスやスパルタクスなどの反体制派と言うか負ける側に立って描写していたのに対して、今作は題名こそハンニバルですが主人公は最終的に勝利をおさめるスキピオのほう。ちょっと読んだ所でなにこれタイトルだけか、大体にして表紙からして視点がローマじゃないの。ハンニバルもっと描けよと。

やや脱線した。

佐藤賢一の作品はどちらかと言うと、最初は弱い立場であったり世の中の反主流派に身を置いている主人公が、権力や強い方に対して悩みながら挫折しながら立ち向かい、それをひっくり返していく痛快さに面白いところを見出す事が多く、実際佐藤作品でいうと私生児の傭兵や、容姿が怪異で母親から見放された怪物ゲクランや、離婚裁判で弁護人のなり手がないくらい追い込まれた王妃とその弁護人などが主人公となって来ており、今作もスキピオ含めたローマがハンニバル軍に負け続けていく過程で義父を失い、父と叔父を失いながら敵将に学んで最後はイベリア攻略やザマの戦いでひっくり返すという基本線は踏襲しています。

一方で今作のスキピオが情けないのは最初の方だけで当初から成功者の片鱗が強く出ており、なおかつハンニバル側の描写がラスト以外殆ど無いに等しいので『カエサルを撃て』ほどの読み応えを感じられないように見受けられます。作品の構成もカンナエの次がイベリア攻略&ザマ編で、その間となる数年間のローマ史上でも屈指の逆境がすっ飛ばされている。逆にハンニバルの方は最後の方でちょろっと感情を現すところも見せるけど基本的には人外っぽい扱いでこれは相当に物足りない。まあ、カエサルを撃てのハゲ親父描写が素晴らしすぎるとも言えるのだが・・・。

それからこの時代・地域の歴史小説として、今から20年ほど前に出た塩野七生の『ローマ人の物語』にも、第二巻に副題がかなり似ている『ハンニバル戦記』 がありますよね。当然このタイトル被りは著者も出版社も承知のうえで出しているでしょうから、これとの比較もしてみましょうか。まず大きく違うのは佐藤賢一の方は図を全く使用せずに活字のみで書き切っている所で、逆に塩野七生の方は図解満載でそれ故にか小説なのにあたかも歴史書として捉えられてしまうくらいの情報量となっており、ちょっとローマ寄り過ぎるんじゃないのとは思うものの題材の良さもあってシリーズ全体の中でも屈指の良作です。私も後者の方は今でも旅行にいく時などの移動時の読み物としてチョイスしているくらい。

ただまあこれは、著者ではなく編集者と予算の差とも言えなくはない。

それから、佐藤さんは今回歴史的な状況描写も入れてはいるけどやや少なめ&人物主体で古代ローマを取り上げており、人間描くほうは今作でもさすがと思うけど、それで地名人名戦況などを理解し作品に没入できる層がどれだけ居るのかな、と言うのはちょっと疑問で、塩野作品やそれ以外の資料を既に読んでいなかったらこれ面白さ半減以下じゃないのかなと感じるんですよね。
これは塩野作品でも最近目立つ傾向で、「これこれの話は以前○○という作品で書いているのでここでは省略します」的な不親切さは個人的にちょっとどうかと思うわけで、読み手がわかってる前提で書き進めるには古代ローマはけっこうハードル高いと思うんですよね。もうちょっとページ割いていいから、値段高くなっていいからそこも書いてよという感じ。こういう知ってる前提で書き手が状況描写を抑えても読み手がついていけるのって、日本の戦国時代、もっと言うと織田信長や秀吉周辺で起きてる事くらいじゃないのかなと。


そこら辺も含めて、★をつけるなら5段階評価で★★☆☆☆
星2つがいいところじゃないかなーというのが一読目の評価。
佐藤作品は平均で星4つ以上が普通についてくる作品が多いので全体としてはちょっと低めでしょうか。

個人的には、今作と対となる形で主人公ハンニバルに置き換えて、BC216カンナエ以降の、最大の勝機を得たところから徐々にカルタゴ側の戦況が悪くなっていく段階をテーマにした佐藤賢一の作品をもう一冊読みたい。いやいや、別に私がハミルカル・バルカの名でブログ書いてるからだけじゃなく、佐藤さんの真骨頂はむしろそっちじゃないのかなと思うんです。



おしまい。

テーマ:大航海時代Online - ジャンル:オンラインゲーム

  1. 2016/02/16(火) 15:38:29|
  2. 本の紹介
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
<<三国志13 その2 | ホーム | 三国志13メモ その1>>

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2016/02/20(土) 17:54:15 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://hamilcar.blog64.fc2.com/tb.php/1530-9d6af02f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

このブログはリンクフリーです。

ハミルカル・バルカ/メルカルト

Author:ハミルカル・バルカ/メルカルト
サーバー:Eos
所属  :イスパ
商会  :たまごのしろ/世界の船窓から
Twitter :hamilcar_notos

FC2カウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
オンラインゲーム
324位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
大航海時代オンライン
11位
アクセスランキングを見る>>

最近の記事

カテゴリー

最近のコメント

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

最近のトラックバック

ブログ内検索

RSSフィード

RSSリンクの表示

著作権について

大航海時代 Online』に関わる著作権、その他一切の知的財産権は、 株式会社コーエーテクモゲームスに帰属します。 このホームページに掲載している『大航海時代 Online』の画像は、 『大航海時代 Online』公式サイトにおいて使用許諾が明示されているもの、もしくは『大航海時代 Online』の有効なアカウントを所有しているユーザーが株式会社コーエーテクモゲームスから使用許諾を受けたものです。